さわやか法話 10   ”永平広録を読む”

 夕方鐘をつく五時過ぎというと、もう日が 暮れてしまいます。 初冬の夜長、皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。 さて、あの良寛さんについての、静かに夜長を楽しんだエピソードです。 良寛さんに「永平広録を読む」と題する漢詩があります。
 永平広録とは、永平寺を開かれた道元禅師が、永平寺での厳しい修行の日々に学び得た教えや、 感じ取った仏道修行の尊さなどを、きちっとまとめあげた少々難解なご本です。
 我々のように道元禅師の教えを慕うものにとって参求しなければならない仏道修行の指導書でもあります。 良寛さんも一人静かに五合庵で、香をたき、灯りをともしてその永平広録を親しんでいた。 読みきった時、感激で涙があふれて、読んでいる本をひどく濡らしてしまった。次の日、村の友達が良寛の草庵を訪ねて来た。 そして、「良寛さま、どうしてそのご本はそんなに濡れているんですか。」と聞いた。 すると良寛さんはテレくさくて「あんまり感激してしまって、涙で濡れたんですよ」とは言えない。 困り果てて「夜来の雨漏りでこの本を濡らしてしまったんですよ」と答えたと言うんです。 道元禅師のどんなお示しに良寛はこれほどまでに心を動かしたのか。 その時の良寛の心情は、などと思いめぐらしていますと私も何か温かいものがこみ上げて心洗われてくるのです。
 静かな静かな感動、いいものですよ。初冬の夜長、どうぞそんな体験を持ってみてはいかがですか。                    栄雄