さわやか法話 41 三輪空寂

 「さんりんくうじゃく」と読みます。私達は、人様に贈り物をしたり、親切のまことを尽くそうとする時、「これをあげるのは惜しいけれど」、「これをあげておけば、きっと」、「たぶん自分のためになるぞ」、「誰かほめてくれるだろう・・・」などと考えが心のかたすみによぎることがあります。「三輪空寂」とは、このようなことをいましめた教えであります。「送る自分と、それを受けた人と、さらに送ったものの内容、この三つのことを認識し、いつまでも心にとめておくのは、真心からなる行為ではない。」ということで、贈り物によって果報、むくいを求めない姿、それこそが最上の贈り物であり、共に喜びあえることであると示されています。
 電車の中に“シルバーシート”があります。老人や身体の不自由な人のための優先席であります。喜ぶべきことか、憂えるべきことか判断にこまるやり方でありますが、聞くところによると席をゆずる人が少なくなったのも、これを設けた一因だそうであります。車内で考えていては席をゆずれません。「三輪空寂」日々の生活の中に、仏道修行の場があることを忘れてはならないと思います。詩人坂村真民の「小さなおしえ」という詩は、こう呼びかけています。
  見知らぬ人でもいい雨にぬれていたら
   走って行って傘に入れておやり
  バスから降りるときは疲れた車掌さんに
   ありがとうと言っておやり
  道ですれ違うおばあさんたちには
   こごえであの世でのしあわせを祈っておやり
  ねがえりもできずねている人があったら
   そっと片隅で、愛のうたをうたっておやり
  小さなことでいいのです
   あなたの胸のともしびを相手の人にうつしておやり
 
私はこの詩の中に、三輪空寂の思いを見出します。とげとげしい世相の中に、乾ききった人情の中に、私達はなんとかして、このような心を養いたいものだと思います。