さわやか法話54  石の塔

 8月1日、今日は「石の塔」。我が家のお勝手でも女性群が朝早くから「おやき」作りに精を出しています。なすのおやきは格別の美味しさ、またお盆近しの味わいもいたします。この日は地獄の釜のふたが開く日と言われ、地獄の釜のふた、つまりそれは大きな大きな石の戸のようなものを連想してしまいますが、その石の戸が開く音や、地獄にいる精霊たちの叫ぶ声が、畑などに行って、土に耳をあてると聞こえてくるとよく聞かされた話です。
 この日のおやきはなるべく硬く焼けといわれて、おやきを仏前に供えることは地獄の石の戸に打ちつけること、おやきが打ちつけられて、石の戸がすみやかに開き、精霊たちが地獄を旅たつことができる、とこう信じられているのが「石の塔におやき」の由来でしょう。そんなわけで、精霊さまや先祖さまのお帰りになる通り道をきれいにしておきましょうと、お墓掃除をする習わしとなりました。
 私の村のある山間僻地の地域があります。昔はお蚕で栄えた10軒ほどの家があったのですが、集中豪雨の大被害や時の流れに、生活の不便さを嫌って、一人出て、二人出てと今ではわずかとなってしまったようです。別れてしまえば、昔なじみの手取り、足取り助け合った仲間同志、逢いたさが募ります。そこで、「どうだい、ここを出た人に連絡して、8月の第一日曜に皆で墓掃除をしよう」ということになったそうです。年々話を聞きつけて遠くからも駆けつける人が多くなったとか。やはり、忘れがたきは、故郷、慕わしきは、故郷の地に眠る父母のこと。今年もまた、仲間が集まって持ち寄ったおやきに故郷の味をかみしめて、墓掃除が行われることでしょう。